今でこそ、院生として真面目にやってるけどさ。
そりゃもう大学時代なんて不真面目の極みだったんだよ。
学費は自分持ち。バイトで稼ぎなんてたかが知れてる。あくせく汗水垂らして働くなんてダルいしさ。
そう思いながらSNSを眺めてると、どうやら『せどり』ってのが楽に儲かるみてえだってわかったんだよ。
……いや、なんでそんな怖い顔してんだ?
あ、あれか『転売ヤー』とかと勘違いしてる?違うんだな、これが。
最初は俺も流行りのトレカとか変身ヒーローのおもちゃとか?とりあえず買ってみたけど、よくわかんねーし赤字になるばっかだった。……ま、向いてなかったんだろうな。
でも、そんな時、あるブログを見つけたんだ。
“偽物の呪物を売って儲けてる奴”のブログを。
いやいや!そんな顔すんなって。今はやってねーから!昔の話だよ。
最初は笑っちまった。でもそのブログの妙にリアルな口調に惹かれた。
『木札を作る時は古材を使え』『線香で焦がしを入れるとより本物に』――そんなチマチマしたノウハウが書かれててさ、まるでホンモノの指南書みたいだった。
これならトレカや玩具よりは知識がなくてもいけんじゃねーかって、結構読み込んだね。
呪物っても、フリマアプリで使用済みのよくある人形を買うだろ、それの髪の毛をびーっと伸ばしたり、ボンドで貼り付けたりな。あとはさっきも言ったみたいに適当な木札に傷をつけたり、ヒートペンで文字を書いたりだよ。
――意味なんてないし、当然謂れなんかない。
こんなんハロウィーンの盛り上がりグッズみたいなモノ。
……その筈だった。
ある時から、俺の作った“呪物”がバカ売れし始めたんだよ。
しかも値段をドンドン吊り上げてっても売れるんだ。
値下げ交渉も無しに、五桁の品物が即決だぜ?正直笑いが止まらなかったな。
コメントのだるいやり取りなんかしなくても、出品さえすりゃすぐ売れる。ほぼ商品ページと発送手続きの画面しか見てないくらいだったな。
だがある時、ログインし直せってメールが来たわけ。
面倒くせえ〜と思いつつ、月の売り上げが十万円を超えたタイミングだったからな。アカウント停止にでもなって、売り上げ没収とかになったら目も当てられねー。しゃあなし久しぶりにマイページを開いたワケだ。
そしたら俺の評価がさ、⭐︎5でビッチリなんだよ。
意味がわかんなくて、そこで初めて俺の商品につけられたレビューを読んだ。
『人形の髪が伸びました!』
『とても呪いの効果がありますこれは本当に効きます素晴らしいです』
『お札を嫌いな奴の机に入れといたら、そいつが事故りましたwありがとうございますw』
……流石の俺もあん時はビビったね。
だって、さっきも言ったが、俺の商品にそんな力があるはずないんだよ。百均と中古屋の寄せ集めだぜ?作ってる時に呪ってやるぞ〜!なんて考えてるワケねーし、ただただ時給換算でいくらかなくらいしか思ってねーよ。
なのに、ある時から俺の買ったものを有り難がる連中の声で埋め尽くされてたんだよ。ゾッとしたね。
正直、意味わからん状況ではあったが、俺は何も悪どいことなんてしていない。なのに面白いほど金が手に入る。
⭐︎5レビューの信者様様だなって思いながら、さらにたくさんの商品を出すようにしてった。
元々やってた飲食のバイトはとうに辞めちまってたしな。
でもな、ある日。初めて“低評価“がついたんだよ。
そん頃には俺は、レビュー内容を読んでニヤつきながら、次はどれ系のものが売れるかなって考えてばっかだった。だからすぐにその低評価にも気付いたのさ。
『高い金を出して買ったのに、商品が同梱されていない!急いでいるのに有り得ない!!!』
んなわけねーだろ、確かに梱包したわ。
と思いつつ、部屋を漁るとさ……あったんだよ、出したはずの人形が。
正直毎日梱包発送しまくってたし、単純にミスったと思った。だから速攻でコメントに謝罪入れて、梱包し直して、その動画まで撮った。今度こそ間違えないようにって、わざわざ宅配の窓口で送付した。
これで終わり、のはずだった。
そこでグッとグラスを煽り、大きい息を吐いた。
帰って玄関を開けた瞬間。ヒヤリとした風が頬を撫でた。
……在るんだよ、その人形が。部屋の真ん中で座ってた。
息が止まったよ。
――おかしいだろ?
元はどこにでも売ってるただの子供用のおもちゃに過ぎない。その頃には新品買って加工してたから、元の持ち主が〜みたいな謂れもない。
でも照明を落としていた部屋で、人形の輪郭だけが薄ぼんやり白く浮いてた。
エアコンもついてないのに、ソイツの髪がゆら、と揺れた気がした。
ソレを見た瞬間、耳の奥で“バキッ”と何かが割れた。自分の歯か、何かの骨か――そんな感覚だった。
バン、と扉を閉めて逃げるように外に出た。冷たく震える指でフリマアプリを開く。
評価がついていた。
『きちんと効果があるようで安心しました!』
――発送時刻と、全く同じ分秒で。
その夜のことはあまり覚えてない。
人形はコンビニの袋に放り込んでベランダに出したが、それでも部屋の中でずっと何かが動いている気配がする。
電気を消すと、コツ、コツと壁や天井や、床、そしてベランダの窓を叩く音がする。
その音が耳に入るたびに、心臓が跳ねた。
このままだと俺は狂っちまう。
翌朝には決めていた。
――もうやめよう。これ以上は、関わらない。
ア?それからどうしたかって?
いくら俺でも人形はキモすぎるから、寺に持ってって燃やしてもらうことにした。
古くからある立派な寺だ。坊さんも最初は笑ってたよ。
「よくある相談ですよ」ってな。
だが、火に焚べた瞬間、顔色が変わった。
……燃えなかったんだよ。
燃やす前は偉そうな顔してたソイツは、顔を青ざめさせてこう言った。
『コイツはお前を気に入っている、他の相手を見つけるまで離れないだろう』
そして炎の中で煤ひとつ付かず、白いままのソレを俺の手元に押し付けて、逃げるように本堂にの奥へ戻っていっちまった。
結局、どうにもできなかったってワケだ。
――じゃあ、その人形は今?
と暗がりでも震えていることがわかる唇で、向かいに座る男が問う。
俺はその様子がおかしくて、声を上げて笑った。
「だから、今も――俺たちのテーブルの下にいるだろ」
「俺と同じような……他の相手なら、コイツが着いていくかと思ったのにな。
ぜーんぜんお前の方には近寄ろうともしねーよ。
……なんだよ沙明、使えねえな」