久しぶりにレムナンと飲みに来た。
前から気になって、マップにピンを立てていた店だ。
SNSで見た通り、間接照明で柔らかくオレンジ色に照らされているレンガの壁。落ち着いた音量で流れるジャズ
カウンターでは髪をしっかり整えた中年のバーテンダーが常連と静かに言葉を交わし、奥のテーブルでは小声で笑い合うカップル。
人の気配はあるのに、うるさくない。
暖炉近くの席に腰掛けると、革張りのロッキングチェアーが小さく軋む。
――この店は当たりだな。そう思いながら俺は二人分のビールを頼んだ。そして「なにかフード頼みな」とメニューをレムナンに渡して任せる。
すると彼は嬉しそうにメニューのページをパラパラとめくり、唐揚げ、フライドポテト、チーズフライという“揚げ物三銃士”を迷いなく注文した。
「……お前の胃袋が若者すぎて羨ましいわ」
「僕と貴方、そんなに年変わりませんけど……」
くだらない掛け合いに笑いながら、グラスまで薄曇りに冷やされた完璧なバランスのビールを俺は一気に煽る。
レムナンは俺より年下だが、理屈っぽさでは上。事務所ではおそらく一番の真面目人間だろう。
だが、そんな彼もこうして外へ出ると、どこか気が抜けたような表情をよく見せるようになった。
出会ったばかりのレムナンは、酒というものを酷く嫌っていた。
彼をよく知る今となっては恐ろしいことだが、軽いノリで一度その理由を尋ねたこともある。
すると彼は「……理性をなくしたモノが、嫌いなので」とだけポツリと零したので、それ以上深くは聞いていない。
しかしいつからだったか、二人で飯に行って俺がちまちま飲むことは許されるようになった。そして自分の分も、とおずおずと彼が頼むようになったのは、それからしばらくしてからのこと。
そんな流れで一緒に飲むようになって……今では俺より飲む。
そして悲しいかな、俺は深酒をしすぎるとダウナーな方向にスイッチがはいってしまう。それに対して、アイツは完全に怒り上戸って奴だった。
一度、所長がどこぞの学術研究会に参加するとかで、留守を預かった時だ。家からより職場からの方が大学院まで近い俺は、近所のコンビニでアレコレ買い込んで泊まりをキメようとした。鬼の居ぬ間にンーフーンーフーってことだ。
当然、その場にいたレムナンは「何を考えているんですか、貴方は……」と眉を顰めた。しかしソレは織り込み済み。こっちが“賄賂”――いくつかのホットスナックを差し出すと、黙ってモグモグと食べてから「まぁ、汚さないのなら……」と泊まりを黙認してくれた。
それで、どういうわけか買い込んだ酒を二人で飲み始め……当然足りずに買い足しに行き……そんなことを夜通し繰り返して、俺たちはソレはもう酷い酔い方をしちまった。
なんで知ってるかって?それは事務所内の防犯カメラに俺らの痴態がバッチリ映っちまってたからだよ。
その映像の中で、レムナンは壁に向かって、延々と謝罪を要求し、俺はそこに向かって泣きながら土下座をしていた。
正直見るに耐えない。
翌日。
所長が映像を再生し、ソファーに倒れ伏す俺たちを無言で見る。
「いい大人たちなンだから、気をつけなよ」
――それだけ言って帰ってしまった。あんな短い説教、後にも先にもあの一回だ。呆れ果てて言葉も出なかったのだろう。
そんなこんなで、俺たちの飲む時のモットーはひとつ。
節度を持って、楽しく。
だから今は、こうして外の店で飲むようにしている。ダラダラ飲み過ぎないし、片付けもしなくていい。万々歳だ。
最初こそは「男二人で洒落た店行ってもつまんねぇよなァ」と正直思っていたが……慣れれば案外、悪くない。
そんなことを思い出しながら、気持ちよく酒が回っていた俺は、ふと、こんな昔話をしてしまった。