五
結局、所長様から新たに仰せつかった大仕事は「裏庭を掘り返して木人を全て集めておけ」というとんでもないものだったわけで。
流石に庭を掘り起こすなら依頼人に確認してからの方がイイんじゃないかとか、昼になってからの方がわかりやすいんじゃねーのかとか、あれやこれやと俺的には至極真っ当な意見を述べたが、暖簾に腕押し。ニコリと微笑まれて、反論を封じられてしまった。
これ以上文句を言っても仕方がないと諦め、ヒイヒイ言いながら暗がりの中で土を掘り返す。
倉庫からスコップを持ってきたレムナンと共にせっせと働く俺は、昔見たカートゥーンアニメの悪のしたっぱみたいだな、ともはや笑うしかない。したっぱの中でも、3人組の両端にいる奴だ。アイツらも特別手当てとかもらえてるんだろうか。
現実逃避しながらも身体はしっかり動かし続け、レムナンがバチバチに冴えた直感?霊感?で、木人が埋められた場所を次々に当てていってくれたおかげもあり、夜が明けるまでになんとか終わらせることができた。
出てきた木人の数は何十枚にも及び、最初に見つけた俺たちの分以外は全て依頼人とその祖母の名前が書き込まれているものだった。レムナンがそれらを並べて口を開く。
「これだけ、探しても……やっぱり、きちんと呪えているものは、ありませんね……。呪いを行ったことで、負のエネルギーみたいなもの、は残ってますけど、それだけでした」
どうやったのか俺にはちっともわからないが、その負のエネルギー?みたいなやつもレムナンがサッサと追い払っていたらしい。俺には土を掘り返しながら、綺麗にならしているだけに見えたが、ナニかしていたんだろう。何も見えはしないが、まぁ餅は餅屋っつーことでノータッチだ。
しかし犯人はこんなくだらないことのために、何度も何度もこの家に入り込んでいたということは紛れもない事実で。
ここまで来ると執念というか、妄執というか……なにかに悪いモノに取り憑かれている奴の仕業だとでも言ってもらえた方が気が休まりそうなクレイジーっぷりだ。しかし、レムナン曰く、
「本当に、怖いですね……これだけの事をやっていて、奇妙な力が働いていないんですから。本当に、ただただ、おかしい人間の仕業でしか、ないんです」
とのことで、それがまた俺の心を縮み上がらせた。ただ一つラッキーだったと思えたのは、今回俺たちが調査に来たおかげでばっちり不審者の姿をカメラに捉えられた点だろうか。
『呪いの道具が出てきた』なんて訴えたとして、普通の警察には鼻で笑われて終わりだろうからな。
そう思うと、監視カメラに映像を残してくれた迂闊な犯人に妙な感謝すら湧いてくる。ともあれ、このビデオを明日に警察へ持っていけば、不法侵入か何かで、確実にお縄につくはずだ。今晩の自分達の働きを内心讃え、俺はウンウンと頷く。
「……捕まる、んでしょうか」
呑気な俺とは対照的に、不安そうなレムナンの声に虚をつかれた。
「こういった手合いは、初犯なら……罰金刑で、済まされることも多い、と聞いたことがあります」
「……マジで?」
思わずマジ顔でレムナンに尋ね直してしまう。苦虫を噛み潰したかのような顔で、レムナンは頷いた。
「ただ今回は、住居に不法侵入もしています。僕たちの映像でその証拠もありますから……その罪状が適応されれば、もう少し重めの罰が与えられる、はず、です」
「でも、そうならなかったら……?」
このタイミングで俺はラキオのいう犯人のプロファイルを思い出す。『犯人はある程度社会的身分がしっかりした人間』だったか。
つまり、反省した演技くらい問題なく出来るのではないか?もし捕まることもなく、うまく有耶無耶に出来てしまうのだとしたら。
その怒りをぶつける相手は……そう多くは無いだろう。
「すみません、嫌な犯人が相手だったので、考え過ぎました。映像も残っていますし、……きっと、大丈夫、ですよ」
硬く強張った俺の表情に気付いたのか、慌ててレムナンが言葉を足す。しかし肉体労働後のハイだった気分はすっかり霧散してしまい、嫌な気分で心がドス黒く塗りつぶされていくようだった。
心配そうに俺の方をジッと見つめていたレムナンに対して、一応「そうだよな、大丈夫だよな」なんて努めて軽く返事をしたが、取り繕えていたか自信はない。重苦しい空気のまま2人で借りた部屋へ戻ると、シャワーを浴び直すこともせずに俺は身体を布団へダイブさせる。
――せめて、映像は顔馴染みの美人の刑事さんに渡すことにしよう
そんなことを朧げに考えながら。レムナンがキーボードを叩く音を聞きながら、夢の世界に抗いもせず落ちていった。